小説の墓場

「ゆいレール」は続くよどこまでも ⑲

 

「マネージャー、おはようございます」

 

と売り場へと続く廊下ですれ違いざまに

大阪独特のイントネーション(*2)で挨拶された。

 

「おう! おはようさん。今日もがんばれよ」

 

と声をかけたんは、先日俺が面接して採用した、

大阪出身、正確には兵庫県の大阪寄りのとこらしいんやけど、

まぁええか、彼女はショートカットで清潔感があり元気もよく、

なかなか期待の新人や。

 

そういえば、前にもう一人大阪から来た美人がおったんやけど、辞めていきよった、

あんまり売られへんみたいやったしな、けどどっかで見たことあるやつやったなー。

 

七時半からの朝礼に向かう。黒に金色で刻印している名札を胸に付ける。

 

(セールスマネージャー 藤堂 仁)

(Sales manager  J.Toudo)

 

「はい! おはようございます!」

 

とにかく元気が取り柄の俺は大声で朝礼を始める。

昨日の売上げや注意点、ベストセラーという昨日最も売り上げた人の発表

そして今日の売上げ目標、月間目標への進捗度合い、プッシュアイテムなど

一通り話し、ちょっと笑いを取りながら今日もがんばりましょう的な流れになる。

その後、スタッフは各ショップや各売り場での打ち合わせをして開店となる。

 

そのあと俺は日によって会議があったり、デスクワークしたり、

売り場でスタッフのチェックや商品のディスプレイのチェックをしたりして

一日が過ぎる。

たまにVIPのお客様が来店したりしたら付き添ったり、

昼前に出社する外人社長にごまをすったりもする。

 

 

「じんじん、この物件にしようよ」

 

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今、住んでるマンションは妻が決めた。

沖縄では高級な方や。

高級マンションや言うても、堺のマンションとはそんなに家賃は変わらへんで、

沖縄の家賃の相場から言えば高級なだけやで。

 

まあ、なんや言うてもベランダからの眺望は最高や。

目の前には緑がいっぱいの「奥武山公園」が広がり、

右手には「漫湖(*3)」そして「国場川」そして左手の遠くには海が見える。

 

妻には「じんじん」と呼ばれている。

名前の「仁」からや。

妻とは大阪の新地の小さなクラブで知り合った。そこで働いとった。

なかなかべっぴんで、ようできた妻やと思う。

俺もまだあの頃は髪の毛もあったし、割りともててたしな。

 

世界の一流ブランドが集まるセレブでラグジュアリーな空間なんやけど

裏はそうでもない。

なんせ社員食堂もないんやから。

外で食うてもええねんけど、外に出たら暑い。

近くのファミレスまで五分も歩かなあかん。

沖縄の直射日光は三分ももたへん。

せやから弁当になる。

春までは俺も弁当があったんやけど、今はコンビニ弁当や。

 

コンビニ弁当を買い忘れたら、あるスタッフが買い置きして、

休憩室の片隅にダンボールに入れて置いてあるカップラーメンを

ひとつ一〇〇円で買って食う。

 

目ざといスタッフは「愛妻弁当はどうしたのですか?」なんて聞きよる。

いろいろ事情があんねや。

 

妻と息子は今年の春を待たずして大阪へ帰った。

喧嘩や、不倫や、もちろん離婚やないで。

息子が小学校に上がるからや。

沖縄の教育環境は必ずしもええとは言われへん。

妻が言うには小さい頃からしっかり環境を整えて、優秀な塾にも入れたいし、

中学からは私立の進学校にも行かしたいと言う。

たしかに大阪には有名な塾もいっぱいあるし、超進学校もある。

みんな小学校から競い合ってんねや。

俺は何にも言われへんかった。

とどめは「ここでは暑すぎて勉強してられへんかもしれんやん」と妻は言う。

 

「じんじんは仕事辞めるわけにはいかんからこっちでしばらくがんばってて。

私ら当分は豊中の実家に住むわ」って愛妻は言う。

 

バイバイ、じんじん。がんばってなー。休みの時には来るからねー」

 

そう言って、すでに夏の気配をうっすらと感じる三月の那覇空港をあとにした。