小説の墓場

「ゆいレール」は続くよどこまでも ⑰

帰りにいつもの居酒屋に行く。

一人で部屋に帰って夕食を食べる気なんてなれなかったし、

なんといってもこの居酒屋のヘチマ? ナベラー? の味噌煮みたいなヤツが

おいしかった。

東京にいたときはお酒なんて飲まなかった。

次の日の仕事に支障をきたしてもいけないし、飲みたいとも思わなかった。

飲みはじめたのは沖縄に来てからだ。

飲まずに部屋に帰るとさみしさのあまり最近連絡のなくなった彼女や

週末にはバーベキューやら草野球など社会人らしい休日の過ごし方をしていた頃の

友達に電話をしたくなるから。

 

僕は南国で楽しくやっているフリをしたかったのだ。

 

金髪で坊主頭の店員に生ビールのお代わりの注文をする。

ついでに聞いてみた。

「てーげーの意味を教えて」

「てーげー? っすか?」

「意味が解らないんだよね」

 

金髪坊主頭は「僕は沖縄生まれじゃないんっすよ、ちょっと店長に聞いてきますね」と調理場に消えて行ったかと思うとすぐ帰ってきて「『適当』とか『ほどほど』という意味らしいっすよ」と金髪坊主頭が言う。

 

適当、ほどほど、なるほどね。

 

その夜、僕は飲む量もほどほどにして部屋に帰った。

そして今度の夏休みに沖縄に遊びに来る予定の友人に久しぶりに電話をかけた。

 

「久しぶりだな。例の夏の沖縄旅行はどうなった?」

 

それからはその友人の言った言葉の衝撃であまり覚えていない。

要点をかいつまむと、沖縄には来るそうだ。

 

リゾートホテルに泊まることになっていると。

 

なぜ連絡してくれないのかと問うと、連絡しづらかったと。

 

なぜ? だと。

 

沖縄旅行のメンバーがその友人とその友人の彼女、

そして最近連絡のなくなった僕の彼女と僕の知らぬ男。

 

その四人で沖縄旅行するのだそうだ。

 

僕の頭の中には近所の小学校の体育館で「エイサー(*4)」の練習をしている

太鼓の音と勇壮な掛け声だけが響いていた。

 

「ドドン、ドン、はっ、ドドン、ドン、いやさっさ、ドドン、ドン、はっ」

 

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いつもより遅い朝八時三十九分、ゆいレールはゆるやかに走る。

今日はいつもより海がまぶしい。

 

車内の中吊り広告に「あなたの好きな島言葉は?」とある。

「てーげー」かな。

応募すると抽選で東京ディズニーランド旅行が当たるらしい。

東京には行きたくないから応募はしない。

 

会社に着くと五分遅刻していた。

所長はこともなげにスタッフと談笑していた。

遅刻を詫びると所長は「てーげー、てーげー」と笑った。

それからふと気付くと、いつもより笑って仕事をしている僕がいた。

 

「仕事も恋も、てーげー、てーげー」

 

 

(*1)ココア生地のやわらかパンにバタークリームをサンド。

(*2)いい加減 or 適当、の意。

(*3)やっぱり人気があり、競争率は高い。

(*4)お盆の時期に踊られる沖縄の伝統芸能

 

 

 

次の停車駅は――奥武山公園、奥武山公園駅に到着します――  

 

The next station is Onoyamakouen  ~♪