小説の墓場

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「ゆいレール」は続くよどこまでも ⑯

三ヵ月が経ち、ようやく仕事にも慣れてきた。

大変だったのが五十人程度いるスタッフの名前を覚えることだった。

沖縄には聞きなれない名前や同じ苗字が多く、すべて紙に書いて覚えた。

所長やスタッフ達からは苗字より名前で呼べば良いといわれたが、

職場である以上、きちんと苗字で呼んだ。

 

「沢田主任は真面目すぎですよ」とよく言われる。

僕はすべての業務に対して真面目に取り組んだ。

スタッフのシフト管理や電話対応マニュアルの作成、月間の獲得目標設定など。

真面目に完璧にこなしたところで本社には戻れないことも知っていたけど。

 

昼休みが終わり、スタッフのひとりが三分遅れて戻ってきた。

僕が厳しく叱責したところ

 

「三分ぐらいいいさー。主任は真面目すぎさー。

てーげー(*2)でやりましょうね、てーげーで」と。

 

僕はその「てーげー」の意味がよく解らなかったが、一応厳しい顔はくずさなかった。

 

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このコールセンターのスタッフには移住者も多い。

「時給がいいからですよ」と関西からの移住者の彼女は言う。

彼女は生活費を捻出するため、いわゆるかけもち、ダブルワークで働いている。

もうひとつの仕事の給料が安いらしい。

 

他にはダイビング関係の仕事(*3)にあぶれた移住者もいる。

彼女は言う「沖縄は遊びに来るところで働くところじゃないですね」と。

ベテラン(実際の年齢は謎)でリーダー格の彼女も移住者で「いまさら実家に帰っても、仕事もないし、友達もいないからね」と。

 

僕も長年ここにいるとそうなるのだろうか。

 

時間は夜の八時、今日の仕事が終わる。

報告書を書いて所長に提出する。

 

「五人も辞めると言ってきたぞ」と所長。

「なぜですか?」

「主任が厳しいから辞めたいそうだ」

「僕は普通にやっていますけど」

「わかってるよ。けどあまりがんばりすぎるな」

 

僕が納得いかない顔をしていると、

「楽しくやらせていたほうが成果が上がる時もあるよ、てーげーだ、てーげー」と

所長はそう言い残して帰っていった。