小説の墓場

「ゆいレール」は続くよどこまでも ⑫

午後もやっぱり汗まみれで過ぎ、今日は早番だった私は夕方五時に退社する。

 

午前八時から午後五時までが早番で午後一時から午後十時までが遅番。

午後一時から五時までの早番と遅番のスタッフが入れ替わる時間帯に、

昼食や休憩を取るシステムになっている。  

 

ようやく帰れる時間の十分前、内線電話が鳴る。

 

いやな予感。

新人の彼女はこなれた手つきで受話器を取る。

 

「かねしろさん、マネージャーが帰りに会議室に来てくださいって」

 

「・・・・・」

 

 

新人のはずの彼女の落ち着いた立ち居振る舞いと

今から始まるなにかが本日二枚目のブラウスの脇のところをジワリとさせた。

 

更衣室で(金城はずき)と書かれたロッカーのシールをはがす。

金城はずき(H.Kinjo)と黒に金色で刻印された名札ともお別れ。

 

覚悟はできた。

レッドカード。

ここまで働けたのも奇跡みたいなものなのだから。

 

一息ついて会議室のドアをノックする。

いつにもまして重く感じるドアの向こうでM字頭のマネージャーが微笑む。

 

悪魔の微笑み。

席に促される。

体型の割りには小さい私の心臓は激しく動悸する。

 

覚悟はできた。

覚悟は。

 

「はずき、おまえ、最近元気ないなー」

 

余計な前置きはいらない。いっそのこと。

 

「みんな心配してんぞ」

 

そんなことはない。

みんなほくそえんでいる。

 

「ノルマも今月きついみたいやな」

 

きた。きたよ。

もう終わり。

 

「今日の昼間な、みんながおまえをクビにせんといてくれって頼み込んできよった。

自分らの売り上げをまわすから、ノルマはなんとかしたってくれやて」

 

えっ。

 

「みんな、ええやっちゃなぁ。」

 

えっ。

 

「いっつも元気なおまえを見とったら、がんばろうっちゅう気になるらしいわ。

だから元気出してがんばれよ、今月は何とかしといたるから。

あんな外人なんかちょろいもんや」

 

 

そこからどうやって帰ってきたのか覚えていない。

 

「花の風車」が聞こえる。

中吊り広告に「あなたの好きな島言葉は?」とある。

 

「にふぇーでーびる(*3)」と書いて応募しよう。

ほんとうにありがとう 

 

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夫の運転で家に帰る。

カーラジオからは「花‐すべての人の心に花を‐(*4)」が小さくが流れる。

 

遠くには瀬長島(*5)に落ちる夕日が赤く燃えていた。

 

今日は手料理を作ろう。 

 

家に着いて、「COACH」のバックを置く。

 

バックの中のマナーモードにしてある携帯電話は

受信メール有りのランプを点滅させていた。

 

バッグから携帯電話を取り出して見る。

未読メール一覧には、あの戦場で知り合った戦友の名前がずらりと並んでいる。

 

そのメールをひとつずつ読む。

 

ひとつずつ、ひとつずつ。

 

台所に持って行き忘れたお昼ごはん用のおにぎりがある。

少しかじるといつもより塩がきいておいしい。

こぼれ落ちる涙がおにぎりに染みていたからだ。

 

(*1)沖縄生まれの沖縄県人。

(*2)内地の人、沖縄県以外の人。「やまとぅんちゅ」とも呼ばれる。

(*3)ありがとうございます、の意。

(*4)世界各国でカバーされ、全世界3千万枚を売り上げたという。

(*5)那覇空港から車で10分の小さな島。夕日のきれいな人気スポット。

 

 

次の停車駅は――小禄小禄駅に到着します――  

 

The next station is Oroku  ~♪