小説の墓場

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「ゆいレール」は続くよどこまでも ⑩

朝の七時半から

「おしゃれ」で「イケメン」で「ちょい悪」とは正反対の、

やたらと明るく元気で頭がM字型に禿げ上がっているマネージャーの

大阪弁での朝礼が始まり八時からの開店となる。

 

来店する客のほとんどは日本人観光客だが、

ここ最近では中国人や韓国人の観光客も増えている、

もちろん基地のある沖縄ではアメリカ人も多い。

 

お客様の半数以上は「見てるだけ」のお客様だが、

時に見るからにセレブなご婦人が尋ねてくる。

 

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「Is this price an exemption from taxation price?」

 

自分の顔がみるみる引き攣るのがわかった。

 

「ハロー」と

「メイアイヘルプミー」と

「サンキュー」程度の英語力しかない私は

100m走を全力で駆け抜けたかのような量の冷汗をかきながら

タコトで応対したが、

そのセレブは英語が駄目なのか私のカタコトが駄目なのか困った表情を浮かべている。

 

館内に待機している英語が話せるスタッフを呼ぶため

備え付けの内線電話を取りヘルプを求める。

 

「あぁ、ちょっと今、全員出払っているから繋いでおいて」と恐怖の一言。

 

ここは戦場、足は引きずられても手を差し伸べるものはいない。

 

周りのスタッフも見て見ぬふり、

あわよくばその客を獲ってしまおうと虎視眈々と狙っている。

 

「客=お金」なのだ。

 

ただ「ジャストモーメント」とつぶやき、

引き攣った笑顔でごまかしている私の冷汗はフルマラソンを完走した量になる。

 

そんな私を見てセレブは肩をすくめながら立ち去り

私の出来高は増えないままで午前の陸上競技のような仕事は終わる。

 

「かねしろさん、お先にお昼どうぞ」

 

と先日入社した新人スタッフに声をかけられた。

 

「・・・・・」

 

彼女は関西からの移住者。

ここは移住者のスタッフも多い。

彼女は全館20℃で冷房が設定されているため制服の白いブラウスの上に

カーディガンを着ている。

 

「風邪引きますよ」と彼女。

 

私の肌に張り付くほどに濡れているブラウスが恥ずかしく、そして冷たかった。