小説の墓場

「ゆいレール」は続くよどこまでも ⑥

職場に戻り、ひとしきり雑務をこなしていると午後からの便が到着し始めた。

那覇空港には約三十分に一便と矢継ぎ早に飛行機が到着する。

到着するやいなや、まるで「ところてん」が押し出されるように

到着出口から人があふれ出てくる。

 

皆、何かしらの期待や興奮を抱き、計算や欲望を秘め、安らぎと癒しを求めて。

 

沖縄という大義名分の下に。

 

忍び寄る家庭の不協和音をかき消すかのように優しくて良いパパ的と、

いつまでも若くて綺麗なママ風、

その間でテンションがメーターを振り切ってはしゃぎまわり、

やっぱり「とんびが鷹を産む」ことはなく、

やっぱり「蛙の子は蛙」であって、

でも「子はかすがい」なんだなと実感できるようなファミリー。

 

高温多湿なこの島で異常なほど密着して腕を絡めあい、

周りからは「見ているだけで暑苦しいから、違う所でやれば」

という目で見られているが、それすら見えていない(バ)カップル。

 

ずんぐりむっくりな体型のくせして

トップモデルのように頭の上にサングラスなんかのせちゃって、

たっぷりと異性の目を意識した無防備な胸の谷間と、

ローライズのジーンズからはみ出るたっぷりの贅肉とおしりの割れ目を

惜しげもなく露出している女性たち。

 

誰を参考にしたのか似合わないサングラス越しにその谷間やら割れ目を物色し、

おおかたろくでもない妄想しか抱いていない男性たち。

 

このインフォメーションカウンターは人間観察するには最高の特等席だ。

 

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「すいません。コインロッカーってどこにありますか?」

 

と海外旅行にでも行くかのような大きなピンクのスーツケースを引きずった

ショートカットの女性が尋ねてきた。

 

「コインロッカーは、そちらのエスカレーターで二階に上がられたら、

すぐ左手にございます」と答えると

 

「ありがとうございます」

 

と言って今度は逆にピンクのスーツケースに引きずられるかのように

エスカレーターのほうへ向かって行った。

あの荷物の量は移住ね、と六年前に大量の荷物と期待と不安を詰めこんだ

スーツケースを引きずって那覇空港に降り立った自分を思い出した。

 

夕日も沈み、まったく海も見ずに一日の仕事を終えると、

いつものように帰宅準備を始める。

いつものように「かりゆしウェア(*38)」の制服を着替え、

いつものようにタイムカードを押して、

いつものように同僚に適当に挨拶して、

やっぱりいつものように今日の一日が終わりに近づいてゆく。

 

安っぽいオーデコロンの匂いも薄れ、やや汗臭ささえ感じるようになった彼が

 

「まや、みんなで飲みに行くけど、どう?」

 

との誘いも、やんわり愛想笑いで「また今度ね」とやりすごした。

 

沖縄の夜は遅い。

飲み会は始まる時間が遅いうえ、集合時間には必ず集まらない。

沖縄ではどうも集合時間が出発時間と認識されているらしい。

だから飲み会は集合時間から一時間から二時間くらいは遅れて始まる。

これで普通なのだ、誰からも文句や注意が出ないのである。

いわゆる「島時間(*39)」がながれているのだ。

 

沖縄の人々は飲みだすと長い、かなり長い。

すこし前まで電車がなかった沖縄では「終電」などの概念がないため、

必ずといっていいほど深夜や、次第によっては朝方まで飲むのだ。

 

泡盛の薄い水割りを片手に、うだうだと同じことを繰り返し話すような飲み会は、

大阪育ちの「いらち(*40)」の私にはストレス以外の何ものでもない。

それに今となれば、あれほどおいしく感じていたオリオンビール

いつもの味になり、たまに飲む泡盛もあの頃の味とは違うような気がする。

 

おいしいと感じていたあの頃の思い出までもが薄れて、

「いつも」に馴染んでいくような……。

 

私はそうして少しずつ少しずつ沖縄を嫌いになっていったのかもしれない。

 

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