小説の墓場

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「ゆいレール」は続くよどこまでも ②

那覇空港駅(なはくうこうえき)

沖縄の玄関口、出発駅。日本最西端の駅。

ゆいレールの出発駅となる那覇空港駅は、空港から専用の連絡通路で直結しており、

観光客や出張で来沖する旅行者を公共交通機関のゆいレールへとスムーズに導きます。

 

沖縄県民にとっては、旅行や送迎といった従来の目的の他に、

ゆいレール那覇空港ターミナルビルに行き、

飛行機を観ながらの食事やショッピング等、新しいプレイスポットとしても人気です。

 

発車メロディと駅進入時の車内チャイムは、

琉球民謡の「谷茶前(たんちゃめー)」を編曲したものです。

 

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那覇空港駅における、速水麻耶(大阪府高槻市出身、26歳)の憂鬱編

 

青い海に白い雲、そして燦々と輝く太陽。

そんな大好きな沖縄での生活。

すべてが夢のようだった。しかし……。

 

ゆいレールは今日も那覇の雑踏の上を走る。

そしていつもの音楽。

那覇空港駅の到着チャイムである谷茶前(たんちゃめー)が流れる。

嫌な音楽だ。気持ちを仕事モードに切り替える曲だ。

昔はこんな沖縄の民謡をアレンジした車内チャイムさえも、ものめずらしく感じていたのに。

 

首里駅から那覇空港駅の三十分弱の通勤も今ではすっかり慣れてしまい、

移住した当初の、まだゆいレールが開通していない頃に

原付バイクで走った58号線(*1)が懐かしく思える。

あの当時は汗まみれになりながらも、夢や希望をたくさん背負い込んで走っていた。

 

車内の中吊り広告にある「あなたの好きな島言葉(*2)は?」のアンケートにも、

何も思い浮かばなかった。

好きな言葉? 何かあったような気もするが、今は何も浮かばない。

 

 

そう、いつのまにか私は沖縄を嫌いになっていたんだ。

 

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改札を抜け、空港への連絡通路を早足で歩く。

早朝の那覇空港に向かう人は少ない、なぜなら観光客がいないからだ。

そのほとんどが空港の従業員だ。

 

すっかり見慣れたいつもの風景とむせ返るような暑さに溜息が漏れる。

 

「はいさい!(*3)まや」と誰かが肩をたたく。

 

振り返ると同僚の沖縄生まれの沖縄育ち、いわゆる「うちなーんちゅ」の彼がいた。

彼はこのところなぜかとても安っぽい香りがする。

おそらく安物のオーデコロンか何かをつけているのだろう。

 

「何を色気付いているんだか、ついこの前まではやたらと汗臭かったくせに」

とは、おくびにも出さずに「あ、おはようございます」とだけ返事した。

 

「まや、今日もメガネさぁね」

 

「まあね」と私。

 

「まや、朝から機嫌悪そうさねー」

 

「今日も暑いからね」とだけ言っておいた。

 

沖縄では親しくなると苗字ではなく名前で呼ぶことが多い。

昔から沖縄では同じ苗字の人が多かったからだ、と社員食堂のオバァ(*4)が言っていた。

 

「まや、今晩飲みに行くか?」

 

いわゆる「呼び捨て」である。

大阪で生まれ育った私には、今更ながら違和感を覚える。

なんだかあつかましいのだ。

彼女でもなんでもないのに。せめて職場では苗字で呼べよ、と。

 

そんなあつかましい彼は適当に「愛想笑い」でかわしておいた。